今回はロバート・ヒルキ氏らによる「TOEIC L&Rテスト直前の技術」という参考書についてレビューしたいと思います。
公開テストまで残り2週間を切っていても,この本に載っている11日間のスケジュールに基づいて勉強すれば,短期間で効率良くスコアアップをすることが可能です。
なお,この本を用いてできることはパート別対策だけではありません。
極めつけに,別冊で模擬試験までもが収録されているわけです。
2千円台という定価を考えると,コスパに優れる本書ですが,詳しい内容や使い勝手についてこれからみていくことにしましょう!
ちなみに,一般的に言われている短期間勉強法については,以下の記事を参考にしてください↓
もくじ
直前の技術について
基本情報
書籍名:TOEIC L&Rテスト直前の技術
著者名:ロバート・ヒルキ,相澤俊幸,ヒロ前田
ページ数:360ページ+別冊52ページ
定価:2420円
出版社:アルク
出版年:2018年2月
音源:CD-ROM。boocoで無料DLも可
目標スコア:600~800点
冒頭で述べた通り,本書だけでTOEICのパート別対策が2週間以内に済んでしまうことに加え,フルサイズ模試が別冊で用意されているため,短期間かつ低予算で総合対策と模試を解くことができる,コスパに優れた1冊です。
特に面白いのがその学習スケジュールであり,普通の総合対策本のようにPart1から順番に学んでいくことをしません。
詳しくは次章でみていきますが,
- 1日目と2日目→Part2対策
- 3日目と4日目→Part5対策
- 5日目→Part6対策
- 6日目と7日目→Part3対策
- 8日目→Part4対策
- 9日目と10日目→Part7対策
- 11日目→Part1対策
といった順で学んでいくことになります。
これは,30年以上にわたってTOEICを教えてきたロバート・ヒルキ氏の経験とノウハウによるもので,氏いわく
スコアが上がりやすい順に学ぶのが効率的だ。
という理由でこの順番を採用しているとのことです。

直前の技術のもくじと構成
直前の技術のもくじは上のようになっており,まずは「学習の前に」のところで,本書のスケジュールについての納得できる解説があります。
わずか6ページの内容ですが,考え方は非常に理に適っており,それに続く「スコアが上がる時間管理術」という項には,各パートを何分で解答しなければならないかであったり,時間節約のコツだったりが書かれていて,得るものが多かったです↓
その後は「1日目はこれ,2日目はこれ」といった具合に,指定された章をやるだけの明快な作業になります。
ちなみに,リーディングセクションの対策のところでは目標時間が設定されるので,ストップウォッチの用意が必須です。
制限時間があるだけでなく,レイアウトの方も単調にならないように工夫されていることが伝わってきました。
流れとしては,どのパートを学習する際も同じで,まずはテスト形式と攻略の基本を学びましょう↓
続けて,より詳しい直前の技術(全48個)を習得するための,考え抜かれた練習問題を解いていきます↓
1日の終わりには「復習問題」が用意されていて,その日に学んだ技術を新しい問題を使って解き直せる構成です↓
この本の学習者の目標スコアとして600~800点が想定されていますが,3つ前の画像下に確認できるように,パートごとに目標とすべき正答数が書かれているので(600点なら16問を正解すべきなど),自分の実力がどの程度のものであるかを判断できます。
実際に使ってみた感想
「11日間」という驚きのカリキュラムですが,もし仮に本書で提示される毎日のノルマをこなすのに10時間くらいかかってしまうのであれば,価値があるものとは到底思えないでしょう。
逆に,一日2時間程度の勉強で終わる内容であれば,毎日4時間頑張って,半分の日数で終えてしまうことだって可能となるはずです。
ここでは,私が実際に学んで一体どれくらいの時間がかかったのかをパート別に測ってみました。

Part2
質問文中の聴き取りやすい語を含んだ選択肢は不正解。
といった,まさに「直前の技術」とも呼べる内容をどのように評価すべきかですが,TOEICは技術でスコアが伸びる側面もあるため,こういった技術であっても素直に受け入れたいところです。
解説には話者の国籍についての記載もあります。
技術を身に付けるための練習問題は9問で,まとめの復習問題は10問ほどあり,1日分は25分弱でやり終えることができました。
Part5
「選択肢と問題のどちらから読むべきか」や「どのくらいのペースで解くか」という速効性のある技術以外に,代名詞・関係詞・接続詞などの品詞を見抜けることが前提になっている技術もあったので,文法的な解説内容が理解できる程度の英語力が必要です。
これについては,以下の記述で使われている言葉の意味がわかるかどうかで判断してください↓
選択肢に前置詞や接続詞が混在している場合は,まず空所の後ろの「形」に注目する。そこが主語と動詞を含む「節」なら空所には接続詞が入る(p.52)
上の技術を実践してみると,文構造を瞬時に把握しないとならないために,文法が苦手な方は技術を使う以前の段階で苦戦してしまうように思われます。
練習問題は1つのコツにつき3問の計12題です。
それを8つの問題を使って復習することになります。
私は文法が得意なので20分弱で終わりましたが,人によっては30分以上かかるかもしれません。
Part6
Part6はPart5の延長線にあるような問題で,基本方針は変わらないものの,特徴的な「文選択問題」を解く順番だったり選択肢を先に見るのか後に見るのかなどの方針が著者によって大きく変わりがちです。
ちなみに,本書は先読みを勧めていませんが,正統派を貫くのには相応しい態度のように思いますし,解説部分に解く際にどういうところに注目すべきかが書かれています。
Part5のところで言い忘れましたが,英文の和訳はすべてに用意されています。
Part6の長文も例外ではありません(とはいえ,語彙または文脈型以外の問題は形だけで判断するので,じっくり読むことはほとんどありません)。
6つの文による練習問題は計10問で,復習問題では2つの文章をTOEIC本番同様の形式で解きました。
計18問でかかった時間は30分弱です。
Part3
「先読み」の技術は,ほとんどの参考書で推奨されています。
その他,本書ではPart3とPart4の69問において,マークシートの塗り方を工夫するように指導されました。
独特だったのは,「攻略の基本」の3つ目に挙げられていた,問題を「森タイプ」と「木タイプ」の2つに分類するところです。
中々にわかりやすい説明で,攻略がより捗るようになりました。
演習問題は7~11個,復習問題は9~12個の計20問程度で,丸付けの際に音声を再度聞き直したために,時間としては長めの35分弱がかかりました。
Part4
Part4の攻略法として紹介されているものの中には,スコアを不当に下げないための方法もあります。
最初の設問は捨ててでも2問目と3問目を取る戦略,そしていざ迷ってしまったたときに役立つ技術のような「大コケしない技」が光りました。
直前の技術を読むことで,どういったシチュエーションで会話が行われることになるかをあらかじめ知って慣れておくことで,その後の展開の予測が付きやすくなります(留守電・放送・会議など)。
一度でPart4の全技術を学ぶスケジュールはかなりのボリューム感で,3問ずつのセットが練習問題で6題,復習問題が4題の計30問でした。
こちらはぴったり35分がかかりました。
Part7
メールや手紙では,最初の段落,各段落の1行目と最終行に注目。
といった具合に,速読を可能にするためのスキミングという技術がさらっと書かれていたりします。
ある程度しっかりと文章を読める人が,時間を節約するためにどういった工夫ができるかに重点を置いて解説されているように感じました。
メールの肩書や役職に注意を払ってこなかった方は,これを機に注意が向くように思います。
そういった「学習者の気づき」を促す効果が,周りに回ってTOEICスコアの上昇に貢献するのでしょう。
私は,選択肢と文書のどちらを先に読むべきかは問題タイプによって変わるという話が参考になりました。
とはいえ,大きな配点を占めるPart7を本書だけで得意にするのは難しいでしょう。
実際,
時間が足りなくなりそうな場合は潔く諦めること。
という指示が見られることからも,高得点を取るためには,かなりの量のトレーニングを別に積む必要があるように思われます。
設問数は,練習問題が3題(ダブル・トリプルパッセージ) と 7題(シングルパッセージ)で,復習問題が2題ずつの計14題です。
本文の訳を確認する程度の復習を行うと,時間的に45分強がかかりました。
Part1
本書ではスコアアップに効果的な順番で学ぶことが基本方針になっており,「Part1やPart7は,直前になって対策してみたところであまりスコアに変化はない」というのが,この本の主張です。
Part1の写真描写問題では,「人物が1人かそれとも複数か,風景と物が出てくるのか,さらには乗り物の場合」に分けて練習していきます。
よく出る語彙に関してはインターネットで画像検索を行ってイメージを脳裏に焼き付けておくという指示が出ていたのは現代的でした。
練習問題が8問,復習問題が6問の計14問を20分弱で解きました。
完全模擬試験
TOEIC L&Rテスト直前の技術には,別冊で完全模擬試験が付いてくるのが魅力で,マークシート・スコア換算表・音源CD-ROM・解答解説のすべてが揃っています。
11日間の予定には含まれていませんが,本書の総仕上げに是非やっておきましょう!
ところで模試に関しては,一回解くことよりも復習することの方が大切だと一般的に言われています。
丸付けして解説を読むだけで終わりとせず,リスニングならばオーバーラッピングやディクテーションを,リーディングでは単語の意味をまとめたりスラッシュリーディングや音読を行うなど,理解をどこ深めるための工夫を施してください。
本書には,そういった復習トレーニングの方法までは言及されていません。
なお,最近では「直前模試」という姉妹書が発売となり,本書で学んだテクニックをより多くの問題(模試3回分)を使って定着させることが可能となりました↓
残り2週間を切っているタイミングでこちらまでをこなすのは現実的ではありませんが,本番までに余裕があるか,次回以降のテストに申し込むことがあれば使ってみてください。
もちろん,これまでに紹介した本書の内容も,1回通読しただけでは理解しきれないところが出てくるでしょう。
なので,真の意味で本書をやり遂げようと思ったら,それこそ1ヶ月あっても足りないくらいのボリュームであることを忘れないようにしてください。
「11日間」というのは,とりあえずの対策に必要となる期間にすぎないわけです。
まとめ
以上,アルク社のTOEIC L&Rテスト直前の技術のレビューでした。
本番まで2週間を切っていても1冊で網羅的な対策ができるところは学習者の大きな安心に繋がるでしょうし,TOEIC初心者の方で「これまで勉強してこなかったけど,さすがに対策無しで本番に挑むのはなあ…」と考えている人にはピッタリの内容だと思います。
本書にかかった勉強時間をまとめてみると,
1日目(25分)+2日目(25分)+3日目(20分)+4日目(20分)+5日目(30分)+6日目(35分)+7日目(35分)+8日目(35分)+9日目(45分)+10日目(45分)+11日目(20分)
のようになり,模試も解く場合は,復習と合わせて3時間といったところです。
なので,結局のところ,全て合わせて9時間弱となりました。
ちなみに,本書が対象とする英語力レベルは400点以上ですが,この本の内容をちゃんと理解するためには,高校英語まである程度理解した,TOEICスコアでは600点に近い学力がある方に適しているように思います。
もちろん,初心者の方が本書で対策することもできなくはありませんが,前置詞や接続詞などの品詞名やその性質についての理解が前提となるため,高校英文法の内容が抜け落ちてしまっている人はいくつかの技術が習得しにくくなることを覚悟しておきましょう。
初心者の方は,以下の記事を参考にしてください↓
直前の技術のレイアウトは余計なイラストを含まず,文章は正統派そのものと呼べるもので,語られる内容は極めて合理的なものでした。
しかし,それが仇となり,場合によっては使う人を選ぶ可能性があります。
ですが,普通は不可能とも思われる短期間での対策が可能になるところは魅力的で,最初の4日間の内容を理解するだけでも,大きくスコアを上げられるでしょう。
その場合にかかる時間は2時間程度ですので,もう数日しかTOEIC本番までの時間が残されていない方であっても本書にすがることができますし,一通り学び終えた後に,最初の4日間のトレーニングだけを念入りに復習してみるのがおすすめです。
一方,別冊になっている模擬試験ですが,その解答・解説に110ページ以上が割かれていることからもわかるように,手抜きしている箇所が見当たりません。
これは復習用の題材として十分なものと言えるでしょう。
本書を使ってTOEICの対策を短期間で済ませ,実際に公開テストを受けて結果を受け取って,それでもなお「もっとスコアを伸ばしたい」と思った場合には,パート別の対策本を新たに買い求めては,弱点部分を集中的に学習していく勉強法がおすすめです。
それこそ,どこまでも深く勉強できてしまいますから,泥沼にはまらないよう,各自の目標スコアとしっかり相談してください。
なお,ヒロ前田氏が「はじめに」で述べていたように,
この本は受験力を上げるのには即効性がありますが,英語力は地道な学習を通じてやっとのことで身に付けられる
ことを忘れないようにしましょう。
上記意見に賛同できる方は,是非本書で学んでみてください!