今回は「TOEIC スピーキングテスト究極のゼミ」をレビューしてみたいと思います。
本書で学ぶことで,TOEICに限らずビジネス英語や英検のスピーキング力も高まるため,幅広い方におすすめできる1冊ですが,以下では本書の特徴や構成の他,良かった点やイマイチだった点をまとめていくことにしましょう。
目次
TOEICスピーキングテスト究極のゼミの特徴
TOEICスピーキングテスト究極のゼミですが,TOEIC S&W Testsのうちのライティングには対応していないものの,2つある別冊も含めると500ページ近いボリュームを誇るのが驚きです。
構成については次章で詳しく説明している関係上ここでは省きますが,文章による記述部分が充実しているのが本書の大きな特徴で,レベルの違う3人の生徒と冨田三穂講師の会話方式で話が進むため,多くの方が非常に読みやすいと感じるでしょう↓
ただし,会話が見られるところは記述部分のすべてではなく,ゼミの最初の掴み部分やそれぞれの生徒の解答例(間違いを含むもの)に大部分が集中しているので,覚える部分と読むだけでよい部分にメリハリが付いているのが本書の特徴であると言っておくのがより正しい表現かもしれません。
生徒はモニター生を12人使ったとの記述がありましたが,スピーキングのスコア的には,
- 現在160点で180点を目指す生徒
- 現在120点で150点を目指す生徒
- 現在90点で120点を目指す生徒
の3人が登場してきます。
分厚い参考書の方が薄い参考書よりもわかりやすいという事実は,「実況中継」といった名前を冠する参考書を使って大学受験を乗り切った経験のあるような方以外には,意外と知られていないことかもしれません。
ただ暗記させられるよりも,根拠が合せて明示されていたり,同じことを別の言い方で伝えたりする方が理解が深まることもあるわけです。
本書には全部で13回(現在の試験形式だと不要な章が2つあるので実質11回)のゼミ部分と3回分の模試が用意されており,1日1回分ずつ進めたとしたら2週間くらいで終わると思います(別冊の1つは要点だけを抜き出したものなので,それを繰り返せば最低限の態度は身に付けられます)。
人には自分のペースがあるわけで,1回分を2日かけてやっても全体を2周以上しても全く問題はありませんが,それでも1ヶ月あれば1通り終えることはできるわけです。
もちろん,3ヶ月くらいかけて完璧に読み倒す内容も備えているので,短期にも長期学習にも対応できる1冊になるでしょう。
さて,このようなゼミ形式の参考書の場合,どうしても著者の個性が前面に出てきてしまうため,雑談めいた内容が多くなったり,個人的な経験に基づく根拠の乏しい方法論を無理に実践させられたりするものなのですが,本書の冨田講師は大学院で言語学を専門的に学んでいます。
私自身,応用言語学を学んだ講師に長年教えて貰った経験があるのですが,ノーティシングやその他方法論には聞き覚えがあり,教育的な正しさを感じ取ることができました。
とはいえ本書には,「複雑さと流暢さをアピールしましょう」といったまさに対策と呼べそうな記述や,絶対的な方法を1つ提示する代わりに「この中から好きな方法を選んで実践してみてください」といった柔軟な指示があるところも魅力です。
TOEICスピーキングテスト究極のゼミの構成
本書の構成(もくじ)は上の画像で示したものとなっています。
ゼミの第1回のみ特殊で,「話せる状態とは何か」についての理解を深め,本書で採用している方法論の根拠やトレーニング法を解説していますが,後の第2回~13回は実際のテストの出題パターン別に練習していくといった内容です。
1つの出題パターンにつき,基礎編と発展編の2回で完結し,例えばゼミの第2回と第3回では「音読問題」を扱っていますが,それぞれで以下のような内容を学ぶことになります↓
- 出題傾向と採点ポイント,サンプル問題と攻略法
- 子音と母音の発音方法,頻出表現と注意すべき発音
1が基礎編になっていますが,問題形式については現行のものと異なるところもあるので注意してください。
例えば第4回(p.72)の写真描写問題は現行のテストだと,問題数が1問→2問で解答時間は45秒→30秒に変更されています。
とはいえ,内容ではスコアに直結するものを学べることが多く,オーソドックスな流れについてみてみると
「問題形式の説明を読む→サンプル問題を解く→自己採点をし採点基準を学ぶ→答え合わせ→攻略法を学ぶ→基礎トレーニングで身に付ける」
といったものです。
このとき,学習者のレベル別に出来栄えを比較できるので,実際どのような答案になるのかも理解できます。
2の発展編では,やや効率は落ちますが,基礎編を終えてさらにレベルアップを目指す人に向けてのもので,
「発展トレーニングを行う→実戦問題で総復習」
というのが大きな流れです。
基礎編に比べるとやることが少ない印象を受けるかもしれませんが,トレーニング内容は多岐にわたっていて,例えば第3回では発音・イントネーション・アクセントのすべてでスケール3を取るため,lとr,fとhといった子音の発音の区別方法や5つの母音の詳細,さらにはシュワー(あいまい母音とも呼ばれるもの)まで深く学びます。
さらに,地名や数字,単位の読み方など,初心者の疑問になりやすい部分についても言及されていました↓
練習問題に加えて宿題もあるので,かなりの分量です。
圧巻だったのは最後のQ11のもので,宿題を含めて19文もの問題に対する答えが得られます。
しかも,目標レベルが5~6(スコアにして110~150点)の場合と7~8(160~200点)のものとで2パターンずつあるので,計38個もの文章を学ぶことが可能でした↓
全部やれば多くの質問に備えられるようになりますが,逆に目標レベルが5~6で良いのであれば7~8のものを学ばずに済むのも特徴と言えるかもしれません。
というのも,その他参考書の多くは完璧な答え(上で言うレベル7~8のもの)のみを1つ提示しているだけであり,現在のスコアが100点程度の学習者では本番で再現できない(時間内に言い終わることすらできない)内容である場合がほとんどだからです。
そういった意味で,本書は初心者の方に役立つ内容を多く含んでいると思います。
TOEICスピーキングテスト究極のゼミの良いところ
それではここで,TOEICスピーキング究極ゼミの良いところをまとめてみましょう!
まずは前章の最後で述べたように,狙う目標スコア別に対策ができるところです。
目標とするスコアごとに,どの問題で何点の採点スケールを狙えばよいかも書かれているので(p.15),例えば目標点が120点であれば,先のQ1-2は2点狙いなので発展編は飛ばせますし,Q5~10でも2点狙いで良いので,先ほどの満点狙い用の答案を省略することで時間を節約できます↓
とはいえ,発展編の文章の記述の中にはただ知っておけばよいヒントめいたものも含まれているので,「音読問題では固有名詞が毎回のように見られる」といった記述など,すべてを完全に無視するのではなくざっと目は通しておくようにしましょう。
本書はスピーキングの対策本ではありますが,トレーニングにディクテーションが出てきますし,冒頭部分で述べたように,「自分が発音できないものは脳が言語として認識せずに雑音として処理する」といった言語学の常識も(She sells sea shells~のような有名な例文も)登場してきます。
スピーキングの初心者にとっては,例えば写真描写問題で位置を表現する際にof the pictureを付けるかどうかすら悩むものです。
ですが,本書では以下のように明示されていて,このようなユーザーフレンドリーな記述を他書で見かけたことはありません↓
数多く問題を解いていれば自然とわかってくるのでしょうが,最初は気になるものです。
その他,写真描写問題の画像がすべてカラーになっていましたし,ところどころでCan-Doリスト(今回のゼミを通して,○○ができるようになる)やお悩み相談に対するコラム(例:ネイティブスピーカーの発音を目指すべきか)が載っていたりと,やる気に繋がりやすい工夫が多く施されているようにも感じました。
先ほど,発展編の内容は本番では出ないことも多いと書きましたが,これらを身に付ければ実力は確実に底上げされます。
TOEICスピーキングテスト究極のゼミの悪いところ
人によってはイマイチだと感じるところがあるとするならば,テキストのノリが軽いところが挙げられるでしょうか。
会話形式なので,どうしても指示が簡単になってしまうところもあり,「カッコいい自分を想定して落ちついたトーンで話そう」といった書き方が気になってしまうような方に本書は向いていないかもしれません。
もっとも,著者の冨田講師は慶應の文学部から上智大学院に進学して言語学(英語教授法も含みます)を修めているため,王道を行く対策が実践可能ではあります。
次に,サンプルアンサーの中には優秀でない生徒の答案例も含まれるので,音声を聴き流しにしていると変な発音例も聞く羽目になってしまうことに注意しましょう。
とはいえ,こういった解答を聞くこと自体はマイナスではなく,実際,TOEICの公式が出している参考書にも,同じような構成のものがあります↓
なお,本書の音声はCDではなく,boocoというアプリやPCサイトを介して聞くことになります(紙面で推奨されているのはALCOという古いアプリとなり,そちらからだとダウンロードすることができませんでしたが,PCのダウンロードセンターの方はアクセスできました)。
独学する場合には,自分で勝手にやらないところを作らないように指導されるものですが,本書は学習量が多いので変なところに時間を取られないようにすることも大切です。
例えば,「彼は髪をスポーツ刈りにしている」とか「彼女は肩までの真っすぐな金髪です」といった表現は本番での役立ち度が低いでしょう(もちろん,英語が話せるようになる観点からは覚えておきたいものではありますが)。
また,TOEICのスピーキング対策本でノートテイキングについて書かれた本はまだまだ少ないですが,それについて学べることを期待して本書を購入したところで,結局のところ,一番最後の「意見を述べる問題」くらいでしか取る余裕がないでしょうし,そのときのノートの取り方で大きくスコアに響くことはないと思うので,レイアウトや著者の教え方との相性を基準に購入するか決めてください↓
まとめ
以上,アルクから出版されているTOEICスピーキング究極のゼミのレビューでした。
スピーキングを得意にするために必要なことの多くは本書に書かれているので,ここで学んだことを意識しながら,他所で過去問を解くようにすれば,「あー,これはあの話だな」などと思い出すことができるでしょう。
そういった意味では,まずは最初に本書を選び,数を別の本でこなすことをおすすめします。
もっとも,本書だけで3回分の模試を体験できますし,形式は現行のものと合っていない部分もありますが,対応できる場面が限られる対策のみが収録されているわけではないため,無駄は少ないでしょう。
ところで,TOEIC Speakingテストで高スコアを取るコツとして,本書の発展編で細かい表現まで学んでおくことも必要でしょうが,私的には,相性の良い問題が出る回まで本番を何度も受け続けた方が実状に合っているように思います(もちろん,そんなことを書くような参考書だと絶対に売れないと思いますが)。
いずれにせよ,TOEIC S&WテストにおいてはSpeakingの方が平均スコアが低く出てくることも知られているため,本書が役立つ人は多いというのが結論です。
冨田講師のスピーキング指導に感銘を受けた方は,同著者の出している「英語スピーキング魂」という本に進んでみてください↓
最後までお読みいただきありがとうございました。