TOEICで実際に出た英文を用いて単語を学習する。
これはシンプルで理にかなっている方法だとわかりながらも,実現するのが困難だったりします。
というのも,TOEICの過去問は公開されておらず,実際に使われた文章を第3者が使うことが不可能に近いからであり,まさか,出題された文章を何十個も暗記するためだけに公開テストを受けるような方はいないでしょう(TOEICマスターを語る方の中には,最新の出題形式を分析するためだけに,頻繁にテストを受け続ける方がいると聞きますが)。
ですが,そんな難しいことを実現できてしまう機関がただ1つ存在し,それがETS,いわゆるTOEICの公式なのです。
今回紹介する「公式ボキャブラリーブック」は,まさに冒頭で述べたような,最も合理的な単語学習を具現化したものであり,圧倒的なスピード感でもって単語学習ができるように仕上がっています。
早速,その内容をレビューしていくことにしましょう!
目次
公式ボキャブラリーブックについて
公式ボキャブラリーブックが発売されたのは2019年の6月のことです。
『実際に出た単語を「公式」で学ぶ』という謳い文句が帯にでかでかと書かれていましたが,確かに,それを実現できるのは本書しかありません。
ちなみに,本書の前にも公式が出した単語帳は存在していました。
その名も「公式問題で学ぶボキャブラリー」という1冊で,詳しいレビューは以下の記事にて行っています↓
なお,今や上記の単語帳は絶版となり,本書が後継として公式単語帳の名を引き継いだ形になっていますが,この理由について考えてみましょう。
それには,2016年5月にTOEICが新形式になったことが大きく関係しているように思われます。
この時期を境に,公開テストの英文の質や使用される単語に違いが生じることになったわけですが,それに加えて,TOEICの受験者の勉強法のトレンドが変化したことも,ある程度影響しているのではないでしょうか。
というのも,昨今は分厚い参考書が好まれません。
ひと昔前であれば「実況中継」のようなタイトルで,予備校の授業が雑談交じりでとにかく分厚いものが好まれていました(使ってみると分厚いけれどわかりやすいことに気が付きます)し,これ1冊を読めばあらゆる知識が手に入るような網羅形の問題集も人気があったわけです。
例えば,文法の勉強をしようと思った際に文法書を学んだり,英語辞書を1冊丸暗記したりする勉強法も普通に指導されていました。
ですが,現状のTOEICで求められているのは,最低限の単語量でもって中々に優秀なスコアを早々に手にすることでしょう。
もちろん,満点に近いスコアが取れる方が良いのは言うまでもありませんが,そのために物凄い労力をかけてしまうようでは失敗なのです。
それは,新入社員の多くが「ほどほどの地位でそこそこの年収を得る方が,激務で高い年収を得るよりも好ましい」と答えているところからもうかがい知ることができます。
本書だと,公式問題で学ぶボキャブラリー(前作)と比べて,単語量とページ数がともに3分の2になった上,学習の仕方もずっと単純明快なものに変わりました。
細かいところだと,CDを付けずにabceed経由での音声ダウンロードに対応しているところも,スマホに慣れた現代人の事情に配慮してのことでしょう。
とはいえ,このように変わった弊害としてマイナスの効果がもたらされたように感じる部分もあります。
公式ボキャブラリーブックの良い点と悪い点について,次章から詳しくみていくことにしましょう!
公式ボキャブラリーブックの良いところ
まずは公式ボキャブラリーブックの良いところを述べていきます。
1つ目に挙げるのは学習スピードが速いところです。
本書はTOEICで頻出の単語1000語を厳選したことで,効率良く学習を進めていくことができます。
語彙力は多ければ多いほど良いのは確かですが,かけた時間に対して期待できるスコアアップはどんどん減っていくものです。
ある程度の数の単語を覚えたら,残りの時間は別の作業,例えばTOEICの出題形式に慣れるなどの対策に費やす方が,結果的により大きなスコアアップに結び付くという意見に賛成の方であれば,本書は役立つ1冊となるでしょう。
単語は名詞,動詞,形容詞・副詞といった品詞ごとにまとめられていて,アルファベット順に登場します↓
中級者以上になると,似た形をした単語を区別できる必要が生じるので,以下で示すレイアウトの恩恵を受けやすいでしょう。
注目すべきは,「基本,1単語につき1~2個の意味しか載せられていない」ところで,この形式は最近のトレンドとなっていて,いち早く多くの単語と顔なじみになることを最優先にした結果です↓
例えばaccountという単語を見て「銀行関連のワードだったな」とか,accomplishmentやachievementが「なんか良い意味の単語だった」などとわかるだけで,問題の正解率や文意の理解度はかなり改善されるでしょう。
とはいえ,単語の意味だけでなく例文も1つ載っているのがポイントで,しかもその例文は高品質ときています。
毎日ノルマをこなせていてまだ余力がある方や,TOEIC S&Wに興味があるような方は,例文の日本語を見て英語にすぐに変換できるように練習しておくと,より良い結果に繋がるはずです。
マイナーなところだと,本のサイズが前作よりも小さくかつ軽くなり,値段も1980円から1540円に下がったことも本書の長所と言えるでしょう↓
前作にはなかった赤シートも付属していて,和訳のみを隠すことができます。
公式ボキャブラリーブックの悪いところ
続いて,公式ボキャブラリーブックの悪いところを述べていきましょう。
前章ではスピード感について述べましたが,TOEICで頻出の単語1000語を中心に学ぶということは,収録語数が少ないとも考えられるわけです(実際,前作は1500語以上あったわけですし)。
大学受験を経験した方は「鉄壁」という単語帳をご存じでしょうか。
それは東大受験生御用達の単語帳なのですが,単語のイメージを想起させるイラストだけでなく,関連語や収録語がかなり多いのが特徴です。
このことは,東大レベルの大学を受けるような受験生はそれくらいの語彙力が必要であることを示していて,TOEICで900点以上を目指すような人は本書以外にもっと詳しくマニアックな単語帳を別にやる必要があることに注意してください。
また,シンプルな構成であるということは,それだけ単調で退屈だということです。
前作の構成としてはリスニングセクション,リーディングセクションなどと章が分かれていて,ところどころに試験問題のようなものもあり,メリハリが付いた学習が可能だったわけですが,本書はずっと同じような学習が続きます。
本書の基本的な勉強法について整理しておくと,基本は以下の通りです↓
- 赤シートを使って見出し語の和訳を隠す
- 日本語の意味が言えるか確認する
もちろん,この他に例文の意味を即座に理解できるかだったり音声を聴いたりもできるのですが,やや面倒くさい作業になるわけですし,その分,スピード感は失われます。
初心者の方であればあるほど,そういった作業を行わずに本番に挑むことが増えてしまうのではないでしょうか。
その他,公式ボキャブラリーブックにはご丁寧に発音記号まで載っているのですが,本書の利用者の中で,これらを正確に読み取ることができる方は少ないように思います。
これはいっそ,省略してしまってもよかったのではないでしょうか。
個人的には,おまけとして基礎例文集(暗唱用)みたいなものが別冊であったら良かったなと思いました。
まとめ
以上,TOEICの公式が作成した最新の単語帳である,公式ボキャブラリーブックのレビューでした。
これまでの内容から導き出される結論としましては,本書はスピーディに必要な語彙力を身に付けたい方向けの単語帳です。
公式ならではの信頼できる例文と,出題実績があることから,安心して単語学習を行なうことができるでしょう。
逆に,TOEIC用の高い語彙力を求める方にとっては物足りない部分があり,各パート対策は別の本を使って必ず行う必要があります。
もちろん,headquartersが「本社」だとか,textileが「織物」だと瞬時にわからないような方であれば本書を使って学ぶ十分な理由があると言えるでしょう。
TOEICの単語帳は非常に数多くが出ているので,各自の実力と目標レベルに合わせて,選ぶようにしてみてください↓
最後までお読みいただきありがとうございました。