最近,企業が求めるTOEICの英語力に関するYahoo!記事を読んだのですが,そこのコメント欄が大変に活気づいていたので,今回はその全746件のコメントをまとめてみることにしました。
主に,TOEICが採用や昇進・昇格などの評価基準にするにふさわしいかどうかが論点となっていたのですが,TOEIC不要論を唱える方のほとんどが「点数と実際の英語力が乖離していること」を大きな問題と見なしていた点が大変興味深かったです(なお,当記事における「TOEIC」とは,但し書きのない限りL&Rテストのことを指します)。
確かに,TOEICが900点を超えている人で英語が話せない人を見かけたり,逆に300点でも上手に英語での電話対応ができているような人が周りにいれば,TOEICを受ける意味はないのではと考えてしまっても無理はありません。
そういった意見に対して,Yahoo!コメントを寄せる人たち(ヤフコメ民)はどのように支持や反論を行うのでしょうか。
以下で詳しくみていくことにしましょう!
目次
TOEICの点数が高くても英語ができない人は多い
自分の会社では,TOEICのスコアが自分より高いのにもかかわらず,英語ができない人が多い。
この意見が,TOEIC不要論を唱える人の中では最も多かったです。
800点を超えているのに英語のニュースがほとんど理解できなかったり,900点超えであっても英語が話せなかったりするヤフコメ民の方々は,入社試験の代替案として英検やTOEFL,または世界的に認められているIELTSやケンブリッジ英検の方がずっとふさわしいだろうと語っていました。
一方,300~500点のスコアの同僚が電話対応を見事にこなしているのを見て,ますますTOEICの点数と話す能力に関係があるのか疑問視するようになったという方や,読みを重視する職場では翻訳アプリを利用するからTOEICスコアは低くても全く問題ないとコメントしている600点の方もいるわけです。
ここで確かに言えるのは,TOEICの点数が高いからといって英語ができるとは限らない,ましてや仕事ができるとは決して言えないということです。
こうなると,TOEICのスコアアップのために必死に努力したとしても,その分,英語の運用能力が上がるのでなければ,かけた時間と情熱は無駄になってしまうと考える人がいても当然でしょう。
社会人が英語を話せるようになるためには
さて,前章において「英語ができない」と言いましたが,実際には「英語が話せない」ことが問題となっています。
そのため,英語が話せる条件に限って考えてみますと,仕事においては,
- 実務経験
- 日本語運用能力
- コミュ二ケーション能力
- 度胸
- 専門知識
- 歴史や宗教背景の理解
といった英語力以外の能力が,TOEICのスコア以上にものを言うことがわかってきます。
1つずつ説明を加えていきますが,例えば,1の「実務経験」とは会議に参加したり,電話に多く出たりすることで培われるものですが,究極形としては英語圏に1年くらい駐在して日本語を使う機会がなければ,いやでも英語がしゃべれるようになるでしょう。
また,2つ目に挙げた「日本語運用能力」が欠如している人は相手の意見を理解できず,確かに今回調べたヤフコメの中にも,的外れな回答をしている人もいたわけですが,こういう人は理解力や論理的な思考力がありません。
その他,英語を話すにあたっては文法や語彙を気にし過ぎることなく,会話が途切れないよう話し続けたり,身振り手振りや表情を上手く使ってみたり,さらにはどうにか自分の意見を相手に伝えるといった能力が重要になってくる場面も多くなることでしょう。
上に示した出川イングリッシュは,特に「コミュニケーション能力」や「度胸」の大切さを教えてくれます(もちろん,出川さんに英語力がないかどうかはわかりませんし,誰も真似することができない能力を持っていることは明らかです)。
普段ぱっとしなくても,何か有事が起こった際には大いに能力を発揮する人もいると聞いたことがあります。
しかし,こうした能力をどのように評価するかといえば,それを正しく評価できる人が面接を行うことになってくるわけですが,そうした人材が果たして社内に存在するのかどうか,また,別のテストを開発するとなれば手間や費用がかかってくるわけで,企業の生産性を落としてまでやるべきかどうかの議論も必要でしょう。
なお,TOEICが浸透する前の昭和時代においては,企業が独自にテストを行っていたわけですが,その内容を怪しいと感じるヤフコメ民もおり,果たして信ぴょう性があったかは不明です。
ところで,日本において英会話の練習を積める場所はほとんどありません。
週に数回程度,スクールに通う程度では不十分ですし,職場で話す内容は「専門知識」がその中心になってくるわけで,瞬発力や社交性などを含むコミュニケーション能力と専門性の2つを高いレベルで維持することは並大抵の努力でできてしまうようなことはないわけです。
外国人を相手にビジネスを行うような場合,「相手の歴史や宗教背景を理解し」,適切な対応ができる人材が有効になってくることは明らかですが,例えば,高い英語能力に加えて,日本史や地理や一般常識のテストまである通訳案内士のテストをTOEICの代わりに採用すれば万事解決するわけでもないでしょう。
英語の会話能力以外に身に付けるべき能力はあるわけですから,合格のレベルに達する人はほとんどいないように思われます。
ところで,TOEICが300点でも英語を話せるという同僚はいても,英語が書ける同僚がいるというコメントは見つかりませんでした。
英語を正しく書くためには,文法力や語彙力が問われるわけですが,これらの能力は会話の勉強だけしていても身に付かないものです。
TOEICが評価に必要だと思うヤフコメ
ここにきて今度は,TOEICが有効だと言う人の主張についてみてみましょう!
話すことに限って言えば,「TOEICでは400点と600点だと会話力の差までは測定できないが,800点にもなれば明確な差が表れる」という意見や,「リスニングやリーディングができると,その後のアウトプットの伸びが全然違う」という意見が目立ってきます。
TOEICのスコアが低くても英語が話せる人に関しては,「話せない英語は聞き取れないので,英語が話せるのであればリスニングのスコアは自ずと高くなるはず」といった意見や,「低スコアの人はディベートや専門的な話題に関するスピーチはできない」といった反論がありました。
相手の意見を理解せずに,ただ自分の意見を一方的に(それも正しくない英語で)話し続けているだけでも,内容についてよく理解しようとせずに傍から見ているだけであれば,一見英語が話せているように感じてしまうのかもしれません。
ただし,TOEICのスコアが高くても英語が話せない人が一定数いることは確かで,そういった人はその人の中での「話せる基準」が高すぎるような気もしますが,TOEICスコアだけでなく,会話練習や書くための練習が別に必要だということを教えてくれます。
とはいえ,そもそもTOEICはL&Rのみの試験でした。
というのも,開発元であるETSが調査したところ,一般的にリスニングとスピーキング,さらにはリーディングとライティングのスコアの間に「0.83」という正の相関がみられることがわかったからです。
ゆえに,理想としては,誰もが楽に点数が上がる怪しげな対策に手を出さずにTOEICを受けることができれば解決できるのかもしれませんね。
手間と費用をかけずにマークシート方式かつ会場と音声機器だけ用意出来れば実施できるTOEICには,ここまでの地位を築き上げてきただけの理由があります。
もっとも,TOEICは2016年に形式を新しくし,実力がなければ解けない問題を増やしたわけですし,実力が誤魔化せないS&Wテストも実施するようになった現在です。
先ほど述べたような,高スコア取得者であるが英語を話せないという人は,新形式になる以前のTOEICを受けた人か,もしくはテクニックや対策にばかり走ってしまい,純粋な英語力を高めてこなかった方なのかもしれません。
いずれにせよ,そういった人たちのせいで,TOEIC高スコア取得者の印象が悪くなっているわけですから,スピーキングもライティングも頑張ってほしいものです。
ただし,S&Wテストについては実施開場がまだまだ少なく,採点に手間がかかる分,料金は高めとなっています。
TOEICを用いた評価についてどう考えるべきか
私が冒頭のヤフー記事のコメントをすべて読み終えた結論としましては,TOEICで基礎力を確認し,その後会話練習や書く練習など,職場に必要な経験を積ませてみる方法を採用してみてはどうかということです。
英語の「基礎力」については,「主に聞くと読むを中心として,それ以外に文法や語彙力があること」と定義しておきますが,それが備わっていると,その後,話すや聞くといった練習を行った際の伸びが良くなることを意味します。
ただし,その基礎力をTOEICの何点に設定するのかについては,まだまだ議論の余地が残っており,概ね,ヤフコメ民の意見としては700~900点の間に設定するのが良いとのことで,実際,楽天は800点を最低条件にしたことで有名です。
いずれにせよ,もし仮に700点を最低基準と設定したとき,700点と900点の人間の英語力に差はないと考えられることが大切で,その後の英語力の評価には別の基準を設ける必要があると考えます。
ここでは,基準を超えたことこそが大切であり,それこそ最小の努力で基準をギリギリ超えたような人であっても,それもまた優秀な能力であると評価せざるを得ないということです。
少なくとも会社の中で,800点と900点に差があると考えるから話がややこしくなるのであり,その先に関しては,それこそS&WテストでもIELTSでも,フォローまで会社側が責任を持って社員から文句が出ないような基準を設けるべきでしょう。
例えば,英会話の経験を積むための訓練として,オンライン英会話を1000時間くらい受講させれば一人前になるという意見を採用するのであれば,入社後にその伸びを正当に評価するためのシステムを作り,これを賃金が支払われる業務の一環として取り入れるべきだということになります。
それ以外にもう一点付け加えておきたいのですが,TOEICは何も,英語の基礎力を確認するためだけに行われているわけではありません。
英語以外の以下のような能力であっても,TOEICスコアから多少なりともうかがい知ることができるわけです↓
- 前向きに努力できる力
- 要領の良さ(器用さ)
- 従順さ
こうしたものも踏まえて,TOEICを足切りとして利用するのは良いことだと思います。
なお,スコアを励みに英語学習を続けられたり,自分との勝負が楽しいといった意見もありましたが,全員が全員語学を好きでないことは確かなので,こちらについては前提にしない方が良いでしょう。
まとめ
以上,ヤフコメにみるTOEIC不要論の主張と,それを受けての「評価基準としてのTOEICの扱い方」について結論めいたものを提示してきましたが,どのような感想を持たれたでしょうか。
自分なりにコメントの意図を正確に分析するよう努めたつもりですが,私自身,TOEICに価値があると信じていることもあってか,結果的に不要という結論には至りませんでした。
とはいえ,以下の2つについては,多くの人に受け入れてもらえる妙案になったのではないかと自負しております↓
- TOEICはあくまで英語の基礎力の確認目的として用い,基準のスコアを超えた人は同列に扱うこと
- そして,その後の書くや話すといった能力に関しては,職種ごとに求められる能力が反映されやすい試験を採用し,しっかりと社員の能力を分析した上でフォローされる体制を,会社側が作り上げること
例えば,TOEICが600点でも翻訳アプリを使えば業務に問題ないと言うような職場においては,実際に翻訳アプリを使って英文を翻訳してもらうテストを実施してみるのはいかがでしょうか。
また,こちらは繰り返しになりますが,相手の歴史や宗教背景が問題になるような職場でしたら,通訳案内士の試験に合格させることを昇給の条件にしてみると良いかもしれません。
いずれにせよ,TOEICの開発側は実力が反映される問題作りに勤しんでいただき,TOEIC対策の発信者は自身の勉強法に責任を持つようにし,かつ社員の英語力が複数のテストで正当に評価されることを祈って,終わりの言葉に代えさせていただきます。
最後までお読みいただきありがとうございました。