今回は,「安倍晋三氏が過去に行ったスピーチを基に,TOEICに役立つ知識を深めていきたい」と思います。
なお,実際のスピーチは日本語で行われましたが,以下で紹介しているように,英語に翻訳された動画も視聴可能です。
当記事では,後者の原稿を学習素材として用い,内容的にいくつかの段落に分けながら,まとまりごとに解説を加えていくことにします。
もくじ
安倍晋三氏の近畿大学卒業式におけるスピーチ
この安倍晋三氏のスピーチ動画ですが,2022年3月19日に行われた「令和3年度近畿大学卒業式」において,氏がゲストスピーカーとして招かれた時のものです。
全部で約15分間にわたるスピーチとなっていて,東日本大震災や安倍政権での自身の教訓を基に,コロナ禍を経験した卒業生たちに向かって,今後の糧となる重要なメッセージを贈っています。
大変ありがたいことに,その内容はYouTubeの動画でいつでも誰でも視聴することができ,完全に日本語のオリジナル版以外に,英語の字幕が付けられた海外向けのEnglish versionまでもが存在し,上に示した動画がそれです。
オリジナル版が500万再生を超えていることからも明らかなように,その内容は何度も観返すに値するものであり,これからも多くの人々の心の支えとなるでしょう。
そして,そのスピーチを英語に翻訳したものは,TOEICを勉強する上でも十分役立てることができ,以下の記事で述べたように,優れたスピーチを題材として学びたい方にとってみればうってつけのものです↓
スピーチを丸ごと暗唱することで,そのままの形で使える表現が数多く身に付きますし,後に登場するAIが生成した音声を使えば,音読の題材や同時通訳の練習にも役立てられるでしょう。
日常的なものから政治的な話題までが幅広くカバーされ,温かなユーモアを交えつつ前向きになるメッセージにあふれているため,練習していて辛いと感じることはありません。
聞き手に英語ネイティブを想定しているからか,英語原稿において使われている語彙レベルは高く,自分のものにできれば多くの場面で役立つはずです。
ここでは,学習のしやすさを考慮して,スピーチを内容的に9個の段落に分けました↓
段落ごとのスピーチ内容
第1段落:祝辞(1分25秒~)
第2段落:ピアノ演奏と東日本大震災(2分14秒~)
第3段落:被災地の様子(4分23秒~)
第4段落:第1次安倍政権の崩壊から総裁復帰までの心境(6分49秒~)
第5段落:決して諦めないことの重要性(8分36秒~)
第6段落:失敗と挑戦(10分32秒~)
第7段落:コロナ禍がもたらした絆(11分34秒~)
第8段落:世界に誇れる日本人の姿(12分38秒~)
第9段落:結びの言葉(14分10秒~)
以降は,上の3つの段落を1つのかたまりのように捉え,TOEICで重要となる表現や文法事項を英語音声や原稿と共に,それぞれみていきたいと思います。
安倍晋三氏の英語スピーチ前編に出てくる重要表現

まずは前編ですが,英語音声はこちらです↓
第1段落
スピーチは祝辞を述べるところから始まりますが,その内容はどちらかといえば大学生の周りにいる保護者に向けられたものであり,1人の人間を自立させるに至ったことに対する労いのように聞こえます。
早速出てきたletですが,使役の動詞ということで,introduceが原形になっているところに注目しましょう。
Let'sという単語はみなさんご存じでしょうが,その元の形はLet usだったりします。
All the students who are graduating from the universityという文ですが,関係代名詞のwhoによってstudentsが修飾されているため,theが付いているわけです。
同時に,All the~という言い方にも慣れておきましょう。
この段落では,全体的に現在進行形が多く使われていますが,今まさにそのための準備をしているのであれば,確定度が高い未来のことを示すことも可能です(例:I am visiting Hiroshima next Sunday.)。
単語に関してはpartyという多義語に注目してみますが,「パーティー,グループ,団体,政党,関係者」などの多くの意味があり,ここでは一番最後の意味が近いでしょう。
さて,upを使った「~まで」という表現としてはup toが有名ですが,up to (until) todayと書くと「今日まで」という意味になります。
up toやup untilで,まとめて1つの前置詞のように捉えてください。
普通,「デイケア」と聞けば,お年寄りのための施設が真っ先に浮かぶものですが,adult day-care centerの意味以外に,今回のようなday-care center for children(保育所)という使い方もあります。
文の構造として,Taking~scolding them at other timesの範囲は完全な文の形をしていませんが,それは,前文のdoing various choresの内容を説明したものだからです。
ついでに,at timesとat other timesの対比にも注目しましょう。
第2段落
第2段落ではピアノの話が出てきます。
動画の冒頭部分でも安倍晋三氏がピアノを弾くシーンが流れていましたが,ロングバージョンの動画を後で紹介しているので,是非観てみてください。
私は「ずいぶん上手い演奏だなぁ」と感心させられたのですが,披露したのは約60年ぶりということで驚きを隠せません。
第2段落のスピーチでは,リーダーとなる者にふさわしい信条めいたものを見て取ることができますが,私が以前,東京大学の入学式に出席した際も当時の学長が同じことを言っていました。
なので,これは安倍氏だけの特殊な考えではなく,トップに立つ人間の共通認識と見なして構わなそうです。
内容に入っていますが,ピアノ動画の長さに言及している文においてcutという単語を確認でき,これは過去分詞で「切られる」の意味で受け身になっています。
比較級の強調にmuchを使うことも併せて確認しておきましょう。
Last year marked the 10th anniversaryという英文は,「昨年(2021年)は10周年を特徴づけた」と直訳することができます。
It is my mottoのitはthat以下を指しており,「頼みを断らないのが私の座右の銘です」という訳になりますが,Since this is my principle(ご存じの取り,これが私の行動原則ですので)に上手く繋がっており,これが先に述べた,リーダーたるものの資質です。
頼みごとをするとき,相手は「この人だから任せられる」と思っているからこそ,そのような行動に出ているわけで,「頼み事は忙しい人にこそせよ」という格言と並んで,相手が有能であるかどうかを判断する際の試練として使われることがあります。
ここのSinceは,後に出てくるSince thenのそれと品詞が異なる点に注意しましょう。
後者は,接続詞ではなく前置詞です。
なお,Urged on by motherのところですが,my mother urged on me to begin piano lessonsという文は,受け身にするとI was urged on by my mother (to begin~)となるため,onは必要です。
2つの前置詞が並ぶと不自然に感じられがちですが,その気持ちを押さえ,正しい英語を書けるようになってください。
filmという動詞は,「撮影する」という意味としてTOEICにも登場します。
第3段落
第3段落では,東日本大震災の被災地と人の様子が語られますが,同じ大学出身の尊敬できる先輩がいることは誇らしいものです。
なお,オリジナル版の動画で「安倍さんの頑張りを」と間違えて字幕が付けられていたことに気付ける方は,しっかりと内容を理解しながら聴けているように思われます(正しくは「安倍さんも頑張れよ」です)。
amidとはあまり見慣れない前置詞でしょうが,iのところにアクセントがあります。
綴りをよくみるとmidという英語が隠れているのですが,「~のまん中に;~のさなかに」と訳してください。
その他,discussやreachは他動詞なので直接目的語(the matterやanother town)を取ることや,the day when(~という時)やMr. Suma Tokuhiro, the president of a shipping companyに見られる同格表現,さらにはwhile (they were) holding back their tearsにおいて主語+be動詞の省略があることに注意しましょう。
なお,I shallやwe willのところを,I'llやWe'llなどとあえて短縮形にしていないところに,話し手の強い意志を感じ取ることができます。
安倍元総理の英語スピーチ中編に出てくる重要表現
続けて,英語スピーチの中編にあたる第4段落から第6段落までを見ていきましょう。
音声は以下で確認してください↓
第4段落
第4段落ですが,話題が第1次安倍政権の閉幕や安倍さん自身の持病といった,困難な時期を過ごしたことが語られます。
「それでも責任は自分にある」と,他人のせいにしていないところが立派ですが,再度立ち上がるための自信はどうしても持てなかったようです。
新薬が開発されて持病の問題がクリアされてもその気持ちは改善されなかったようですが,被災地で強く生きる人の姿を目にした際についに決意が固まることになります。
「就任」という意味の単語としては,installationやinstallmentがTOEICに出てくることが多いように思いますが(後者は「分割払い」の意味も重要です),inaugurationも同レベルの単語とされます。
私はrun for~という熟語を知りませんでしたが,調べると「~に立候補する」という意味があるようです。
この段落では,crushing defeat(惨敗)やdeadlock(行き詰まり)を筆頭にネガティブな単語が数多く見受けられるのですが,最後の方ではreviveやrestore,regainといったポジティブな意味の単語が目立つようになります。
J-POPで言うところのBメロの最後の部分ではないですが,第5段落というサビに向かってテンションが高まってくる感じがありました。
第5段落
今回のスピーチの中で,私は第5段落で語られている内容が一番好きです。
単純なことかもしれませんが,真理というものは大体わかりやすい形をしているもので,自分探しに出かけた人が,結局自分自身の中にそれを見出したという話をよく耳にします。
「決して諦めないこと」と「自分に自信を持つこと」。
この2つを,教訓としてしっかり自分の中に刻んでおきたいものです。
英文についてみていきますが,Becauseで始まる英文を書くのは特別な場合を除いてできるだけ避けるべきとされ,今回の翻訳のように,その前にIt isやThis isを付けることで問題なく使うことができます。
step forwardという語句が,つんくさんの曲の歌詞と安倍政権を一緒に支える素晴らしい仲間について形容する際に共通で使われているあたり,English versionの文章もよく考えられているように感じました。
なお,TOEICの単語帳で学んでいると,step down(辞任する)を目にすることになるでしょう。
また,I promised to never drink alcohol againの英文に見られる,to neverという語順は,いたって自然なものです。
第6段落
今回のスピーチで,never give upと並ぶ重要表現はrise up(立ち上がる)でしょう。
少年向けのマンガで目にすることが多い教訓の1つですが,大切なことは何回も繰り返し説明するくらいがちょうど良いように感じます。
例えば,健康であって普通に1日が送れることのありがたさは,自分が病気やけがの状態になってみない限りは忘れがちなわけです。
You may fail, but rise up again!のような英文の形で覚えて,すぐにでも使える状態にしておきましょう。
第6段落のスピーチの目的は,失敗しても挑戦することの重要さを伝えることですが,ここではDisneyの創設者の話が例に登場します。
私が聞いたことがあるのは「紙吹雪にあえて丸い形のものを使った」という逸話ですが,「地面に落ちたときに隠れミッキーのように見えるから」と社員に説明したことからわかるように,ウォルトディズニーという人物に関して,実に多くの魅力的なエピソードがこれまでに知られています。
TOEICに出る単語としてはtake on(引き受ける)が大切です。
安倍元総理の英語スピーチ後編に出てくる重要表現
英語スピーチの後編は第7段落から第9段落までを扱います↓
第7段落
第6段落から,話題の中心は卒業生の方に移っていましたが,第7段落ではコロナ禍で困難な状況を経験したことと,そこでしか築けない絆についての話が展開されます。
これが,第4~5段落で述べられた困難や素晴らしい同僚の話と重なってくるわけです。
英文の解説をしますと,先ほど紹介したThis is becauseに対する表現がThis is whyであり,1語で表すとSoに近い意味になります。
not~very(あまり~でない)という表現の他,not A or B(AでもBでもない)やonly a few(ほんのわずかな)といった否定語があったり,同じ「困難」という意味を表す際にrestrictionsやhardshipsやdifficultiesといった複数の単語を使い,同一の単語を繰り返さないための工夫だったりを学びましょう。
ちなみに,スピーチに出てくるyouという単語の多くは,「あなたがた」と複数の意味で使われています。
とはいえ,自分1人に向かって話しかけられている感じがするのは,youが「あなた」という単数の意味でも使われるからでしょう。
fosterは育むという意味で,友情以外に子どもを育てる意味でもよく使われます。
第8段落
第8段落では,卒業生の自信に繋がるエピソードが語られますが,ここでの日本人の姿はまさに美しい国に生きる人のそれに他なりません。
多くの重要単語が出てくるのでしっかり学んでおきましょう!
具体的にはengulf(飲み込む)やcalamity(災難),decently(礼儀正しく)やwield(巧みに使う),shout oneself hoarse(声が枯れるほど叫ぶ)といった語句の他,TOEICに頻出なのはevacuation(避難)やrubble,そしてdebris(最後2つの意味は「がれき」)です。
ちなみに,deprive A of Bは「AからBを奪う」という意味ですが,英語圏の人の発想は「BからAを奪う」となっていて,このofはoffに似た意味があります。
ゆえに,上のスピーチの場合,「normalでpeacefulな日常生活から多くの人を奪い去った」というのが英国人の捉え方となり,rid A of Bやrelieve A of Bも同じ考え方です。
第9段落
これまでの第6~8段落を聞いて,困難を共にした仲間の存在に気づき,自分に自信を持てるようになり,失敗を恐れずに挑戦できるようになったように思いますが,第9段落でもダメ押しをして結びとなります。
ここでは,これまでに語った内容を振り返りますが,使われている表現の多くはすでにどこかで目にしたものです。
英文の内容的には,2つ目にある文がやや意味を取りづらいですが,「熱意ある彼らが,私に若者に対する大きな期待を受け入れさせる」と直訳することができます。
なお,My young friendsというのは呼びかけで,ここでのurgeはurge 人 to do(人に~するよう勧める)という形で使われていることに注意しましょう。
さいごに
2022年7月8日に安倍晋三氏の訃報が流れ,私はその後にようやく本スピーチの存在を知ることになりました。
最初は何となくの気持ちで視聴してみたのですが,話の構成はもちろん,間の取り方であったり表情や抑揚の付け方だったりは流石の一言で,若者に贈るスピーチとして全世界に誇ることができるものだと確信したことが,当記事を書いたきっかけです。
このスピーチは,これからの未来に生きる若者だけでなくあらゆる人々を前向きな気持ちにしてくれるものであることに異論の余地はないでしょう。
上で見てきた原稿はあくまでEnglish versionのものであり,安部氏本人がスピーチした日本語とは厳密には異なりますが,元が素晴らしい内容であるため,翻訳されたものであっても何らその輝きを失っていません。
是非,何度も動画を観ながら英文を読み直し,時には暗唱したり日本語のスピーチに合わせて英語を話したりしてみてください。
最初は全然オリジナル版のスピーチの魅力が伝わるような読み方はできないでしょうが,安倍さんだったらどのように読み上げるのかを考え,動画を観ながら実際に英語を話してみることが大切です。
数をこなしていくと,少しずつではあるものの,自分の発する言葉に力強さのようなものが宿ってくることに気が付くでしょう。
最後になりましたが,安倍晋三という偉大な人物と同じ時代を生きられたことに感謝し,今回のスピーチを通して得られた沢山の教訓を,私自身これからの人生に役立てていくことをここに誓います。
どうぞ安らかにお眠りください。