今回ですが,TOEIC公式が2024年12月に発売した「Part 3&4音声速解」をレビューしていきたいと思います。
変わったタイトルをしていますが,要するに,流れる音声に遅れず付いていき,聞き終わりと同時に内容を理解できている状態を目指すための本です。
TOEICのパート3と4は比較的長い英文の聴き取りを行わなければならないだけに,実力がものを言いますが,果たして本書を使うことでどのような対策ができるのでしょうか。
目次
Part 3&4音声速解が優れているところ
Part 3&4音声速解(以下単に「音声速解」とする)に収録されている問題は,米国のETS(TOEICの問題を開発しているところ)が作成していることもあって,品質は文句なしの最高レベルです。
もちろん実際に読み終えての評価ですが,とはいえただ問題を解くだけであれば誰もが買うであろう公式TOEIC問題集がすでに利用可能ですし,他に公式が出しているリスニング編の方ではパート1~4の問題が幅広く収録されているため,お得感はむしろそれらの方が優れているように感じられます。
しかし,今回紹介する音声速解では公式流の解き方を学ぶことができ,そこで培った知識というのは今後あらゆるリスニング問題を解く際に応用することが可能で,リスニングに臨む姿勢が変わるとでも言いますか,意識する点が変わるだけでも結果は大きく変わってくるものです。
詳しい方法論については次章以降でみていくとして,ここでは本書の構成をまとめておきましょう!
全部で5つの章から成りますが,具体的には1章で方法論について学び,2~3章で場面別に演習することによって完全なる習得を目指します↓
- 音声速解のための効果的トレーニング
- Part3 会話タイプ別 速解演習
- Part4 トークタイプ別 速解演習
- 実践テスト1
- 実践テスト2
とはいえ,それだけでは本番で使い物になりませんから,4章と5章で本番と同形式の小テストを解くことになるわけです。
それまでに学んだものがごちゃ混ぜになって出てくるため,真の習熟度が問われることになります。
今回特に紹介はしませんが,1章ではパート3や4の解き方だったり英語が聞き取れない原因だったりの説明もされているので,TOEICにおける該当パートの攻略に関するあらゆる知識が網羅されていると言っても過言ではありません。
1冊を通してのページ数は全320ページで,サイズはA4用紙よりわずかに小さい程度になります。
残念ながら,電車の中で気軽に読めるような大きさではなかったです。
とはいえ,音声ファイルはパソコンから一括ダウンロードができる以外に,TOEICの公式アプリにも対応しているので,出先でも簡単に聞くことができるでしょう。
音声速解で身に付くTOEIC公式流のリスニング術
それでは,TOEIC公式流のリスニング術についてみていくことにします。
発信手段が多くなった今,多くのTOEIC高得点者が様々な方法を紹介していますが,信頼度という点で公式に勝るものはないでしょう。
音声速解では全部で3つの方法論が紹介されていました↓
- チャンク聞きとイメージ化を行う
- 音変化/地域による発音の特徴を把握する
- 機能表現と談話標識を意識する
それぞれについて簡単に解説していくと,最初のチャンク聞きでは,意味のまとまりごとに聞き取りを行い,それをイメージで残すように努めます。
全部のセリフを音だけで聴き取ろうとしても,長文を対象とするだけに記憶に長く留めておけませんし,全部を一字一句漏らさないような態度でいるとすぐに疲れてしまうでしょう。
今はまだ想像できないかもしれませんが,TOEICのリスニングの特にパート3以降は日本語を介してしまうと話に付いていけません。
ちなみに,本書においては英語の音が正確に聴き取れることが前提になっている感じはするものの,隣の音同士が化学反応のようなものを起こして音声が変化しているところに関しては聴き取れなくて当然だと思います。
というのも,そのために2つ目の方法論が存在しているからです。
I'veのような短縮形の話から始まり,連結・破裂音・/t/の音・同化・弱形という6つの音法を学ぶことにより,単語帳で音を聴いているだけでは決して身に付かない能力が磨かれることになります。
加えて,訛りについても学んでいきましょう。
最後の方法論では機能表現と談話標識について学び,前者は「Can you~?」を依頼の文と判断する的な話です。
提案や許可,謝罪や激励を行う際によく使われる表現を学びましょう。
一方,後者の談話標識ですが巷では「ディスコースマーカー」や「論理展開を示す語」と呼ばれることもあります。
例えば,becauseは理由を示す談話標識ですし,for exampleは例示です。
このように,談話標識は話の展開がどうなっていくのかを予想するのに役立ちます。
1章にある演習問題がTOEICの問題形式と全く異なっているのは,目的がこれらリスニング術の習熟だからです。
例えば,チャンク聞きの問題では,スラッシュが入った英文も使ってイメージを浮かべる練習をします↓
面白いのは思い浮かべるイメージのイラストがあるところや,チャンクごとにポーズが設けられた音声が用意されているところです。
英文自体はナチュラルスピードかつ訛りがあって難しめですが,せっかく練習素材にするわけですから,簡単なものでは用を為さないでしょう。
また,音変化の演習課題では,書き取りを行う他,特殊な発音に関する知識を深めるためのものになっていました↓
話者の国籍が何であるかも示されている他,右ページの解説内にも多くの音知識が登場してきています。
3つ目に関する問題では,談話標識を見つけるように指示があったり,解説内容がそれ用のものになっていたりしました。
音声速解ではTOEICの全問題タイプに触れられる
前章のような感じで1章を終えたら,学んだ方法論をベースにいくつかの場面別に本番に使える形へと変えていくことになりますが,それを行うのは音声速解の2章と3章部分となり,割かれている紙面数の割合はどちらも最大となっています。
明らかにメインコンテンツです。
問題はいよいよTOEICに出てくるそれとなり,
- Part3では5種類の会話タイプ
- Part4では10種類のトークタイプ
を題材としますが,TOEIC本番の問題もこれらいずれかのタイプに分類されると考えてしまって構いません。
これはつまり,TOEICの問題全てにおける解き方を知ることに他ならず,問題集を解く場合も同じです。
もっと言えば,英語におけるあらゆるリスニング問題は1章で学んだ3つの方法論でもって理解することができます(ただし,内容が論理的になっているものに限ります)。
音声速解では次の5つのステップに従って学んでいくところが特徴的です↓
- 英語を聴く
- 設問文で何が問われているかキーワードで掴む
- チャンク聞きを行う
- 設問を解く
- リピート・音読練習で理解力を高める
スモールステップ方式なので,簡単なところから徐々に難しくなっていきますが,同じ音源を10回近くは最低でも聞くことになりますから,本書を通したリスニング量は結構なものになります。
もう少し詳しくみていくと,ステップ1では英語を聴いて一番大切な内容を聞き取ってください↓
詳細はさっぱりでも,どんな話題かだけなら初心者でも聴き取れるはずです。
次に質問文を確認しますが,重要な言葉に印が付けてあるので,それを頼りにすることができます。
ステップ3では1章で学んだチャンク聞きや音変化,さらには談話標識が満を持しての登場です↓
そして次にもう1度問題を解いてみるわけですが,ステップ2のときとの違いを実感してください↓
見違えるように聞けるようになっているでしょう。
それが,公式流リスニング術の効果です。
最後にステップ5として,精読・チャンク分け作業,オーバーラッピング,チャンクの区切りごとに読み上げを行います↓
音声速解の実践テストの質はどうか
ちなみに音声速解の実践テスト(模試)の量ですが,パート3と4の問題のみを本番の2回分,計138問を解くことができます。
何の変哲もない問題形式ですが,本番同様の環境を作ることが重要なので,一気に1回分を連続で解いていきましょう!
疲れた状態でも集中力を切らさない練習をすることも重要ですし,マークシートも付いているので塗る練習もしてください。
本番と同じ難易度で,話者も同じ訛りと話し方をしてくれるわけですから,特殊な教材(例えば満点狙いの教材はやたらと難易度が高めてあったりします)を除いて,やはりこれ以上の質の教材は作れないでしょう。
解答・解説の方には本書なりの創意工夫がみられて,まず一つ,音変化情報が載っています。
これは方法論の2つ目で学んだものです。
とはいえ,チャンクは入っていませんので,自分で入れる必要があります。
個人的には語注が充実しているように感じました。
例えば以下の単語の中に知らないものがあれば,多くの学びが得られるはずです↓
音読も含めた復習すべてをやり終えた暁には自信を持って本番に臨めるようになるでしょうし,実際スコアもずっと良くなっていることでしょう。
どのような人が音声速解を買うべきか
最後に音声速解がおすすめできる人についてまとめてみようと思います。
本書はリスニングにおいてイメージを頭に描けるか,また,チャンクごとに聞くことを要求してきますので,そもそもの音すら満足に聴き取れない初心者にとってはかなりハードルが高いと感じられるでしょう。
ですが,それも最初だけで,音声速解は上でみてきたように5段階のスモールステップで学べるようになっているので,初心者やこれまで我流で学んできた方に向けて丁寧に書かれている印象があります。
それに,結局本番では本書レベルの音源を聞き取る必要があるわけで,スコアアップを望むためには避けて通れないところでもあるため,最終的な到達目標を高い地点に設定している方は,早めに取り組んでおいて欲しい教材の1つです。
先述したように,高スコア取得のためにはリスニングスコアを伸ばすことから始めるのが効率的ですし,今回知り得た方法論を別の書籍で学ぶ際にも当てはめることができます。
今一度,演習問題のステップ5で行なったことを思い出してみてください。
さすがにチャンクごとにポーズが入った音源までは自前で用意できませんが,それは一時停止を使って対応することにすれば,他のリスニング問題も同じように復習することができるはずです。
音声速解をやることで自律学習が可能になるのもメリットと呼べるでしょう。
正しい方法論を知り得た後は,目標に達するまで練習を繰り返すだけで良く,リスニング学習で一番難しいところは本書がすべて教えてくれます。
とはいえ,TOEIC対策でみた場合,全体を通して解く際のテクニックについては別に学んでおく必要があることは1つ覚えておいてください。
無論,実力が備わっていることが前提にはなりますが,例えばパート3や4では先読みをすることが必須級です。
本書にも先読みの際にどこをみるべきかについて,それぞれの問題タイプ別に書かれていますが,本書の模試でしか実践ができずやや不足しているように感じたため,必要に応じて,以下の記事または総合対策できる教材で学んでみてください↓
もちろん,最初は総合対策ができる教材や基礎的な実力を伸ばす教材(単語帳や文法学習)から始めるべきであることを最後に述べておきます。
以上,お読みいただきありがとうございました。