今回は,英語を話す目的で書かれた文法書である「一億人の英文法」をレビューしていきましょう!
本書の特徴ですが,他の文法書のように,固い口調でもって多くの情報量を詰め込んだ感じには仕上がっていません。
解説内容や文法項目の配置は工夫されていてわかりやすく,TOEICのPart5以外にスピーキングテスト対策に役立てることもできます。
そもそも,文法が苦手な方が分厚い従来の文法書に手を出したところで,最後まで終えられることはきっとないでしょう。
実際にそのような苦い経験がある方も,是非参考にしてみてください。
もくじ
一億人の英文法について

この一億人の英文法は,初版が2011年の9月となっており,もう10年以上が経っています。
とはいえ,内容的にはまだまだ現役で,最近覗いた本屋さんでもおすすめのコーナーに山積みにされていました。
著者は大西泰斗とポール・マクベイ氏ですが,共著として出版した本は意外と多く,特に今この本を手に取ろうとしている方の中には,NHKのラジオやテレビで彼らについて知った方も少なくないでしょう。
出版時においてすでにNHKの語学番組に出演していた両者ですが,2018年度に番組がリニューアルした際,テキストが異例の大ヒットとなったことがニュースになりました。
受講者からは
不思議と挫折しない!
とか
説明がわかりやすい!
といったコメントが寄せられており,その他の著書の評判も良好です↓
ラジオテキストのカリキュラムは一見すると独特ですが,一億人の英文法を読めば,
なるほど,著者の教え方がそもそもこういうものだったのか!
と妙に納得できるでしょう。
苦手とする人が多い英文法ですが,本書は大変に読みやすく,688ページというボリュームの多さも気になりません。
当サイトでは,初心者向け!TOEICのおすすめ参考書の1つとして紹介しました。
なお,気になることとして,問題演習ができないことと英語音声が聴けないところが挙げられるのですが,それ用に
- 一億人の英文法問題集
- 一億人の英文法CDブック
がそれぞれ別に出ています(一億人の英会話という本もあります)。
本書がページ数の割に安く提供できているのはそのためでしょう。
それでは次章で,本書の特徴をまとめてみることにします。
一億人の英文法の特徴
一億人の英文法の特徴は,以下の6つの項目において,何らかの工夫を凝らしているところです↓
- 文法用語,英文のルール,読んだ時の並び,文や単語の背景知識,解説や英文の質,イラスト
本によると全部で8個があるようですが,ここでは私なりに気づいた点を7つ紹介してみたいと思います。
文法用語が出て来ない
文法用語の多くは,英語を話すという観点でみた場合,知ったところであまり役に立たないものです。
例えば,関係副詞では「制限用法」や「非制限用法」といた用語を目にしがちですが,本書においてはそれぞれ「wh修飾」と「カンマ付きwh修飾」に変更されています↓

もっとも,多くの予備校講師はオリジナルのわかりやすい解説方法にこだわるもので,本書で「現在形」と称しているものを,あえて「過去現在未来形」や「半永久形」と呼ぶこともあるくらいです。
つまり,学習者が理解しやすいものであれば呼び名は何でもOKというのが真実なのでしょう。
とはいえ,多くの問題集では通常の文法用語を用いて解説が行われ,むしろそうでないと,多くの読者に「ああ,あのことね!」と気づいてもらえません。
そのため,今後問題集を多数使って勉強する予定があれば,文法用語を避けて通れないことを覚えておきましょう。
簡単な配置原則を採用している
本書内で,著者が「英語は配置のことば」であると述べているように,簡単な配置原則を知るだけで多くの文法項目を使いこなせるようになるところが本書の大きな特徴です。
具体的には,基本文型と修飾方向,配置転換と時表現の4つの使い方を覚えることに専念します↓

例えば,「形容詞」という文法項目は修飾方向を解説する際に登場してくるのですが,上の配置原則に従い,記述内容は以下の通りです↓

これを読んで単純明快だと感じられた方は,是非本書で勉強していただけたらと思います。
項目の順番に工夫がみられる
ここで,本書のもくじをみてみることにしましょう↓

先に語った原則は,基本事項がCHAPTER0に書かれており,PART1で基本文型の理解に繋がる主語・動詞・名詞を学びます。
続くPART2は修飾に繋がる内容で,先に紹介した形容詞はここで語られていました。
複数の原則の橋渡しになるであろう内容が見受けられた他,PART4では配置転換に関する疑問文を,PART5においては時表現を学ぶといった具合に,本書の配置原則に沿った順番でもって文法項目が配置されています。
通常,文法書は前から順番に読んでいくというよりも,わからない場所をピンポイントで検索してみては読んで納得する形でを取るもので,本書は前から1つずつ理解して積み上げていくスタイルです。
ゆえに,ある程度の内容を学び終えないと全体像が見えてこないので,学ぶからには最初から最後まで読み切る覚悟でいてください(かかる日数については後述)。
文の成り立ちについての解説がある
文法用語にこだわらない分,どういう気持ちで文が作られているのかの解説に紙面の多くが割かれています↓

同じ文を引用していても,must≒have to(~に違いない)とした参考書もあるわけで,本書から受ける印象の違いが実感できるでしょう。
基本単語の解説が充実している
基本的な動詞や副詞,前置詞などには特別なページが設けられており,そこで詳しく解説されます↓

英語ネイティブがどういった意識でもってこれらの語句を用いるのかを理解することで,複数の意味を持つ単語であっても根っこの部分は同じだということがわかるはずです。
特に,前置詞の説明はTOEICで役立つ場面が多く,どちらにするか迷ったときの正答率が高くなるように感じています。
こういった本質を解説する姿勢は丸暗記をさせないことに通じるもので,本書のいたるところに見て取ることができるはずです。
理解を助けるイラストが多数ある
文字で勉強する方が理解しやすい人がいる一方で,イラストでイメージを示してもらう方が覚えやすいという方もいます。
もちろん,学ぶ内容によってそれが逆になることもありますし,両方が揃ってやっと理解できることもあるでしょう。
本書は後者で,著者自らが描いたイラストが豊富に用意されていて,文章だけでなくイメージからも学ぶことができます↓

単語や熟語の意味を解説する際にもイメージを伴うため,日本語訳に頼っているといつまで経ってもわからないネイティブ感覚を掴みましょう↓

自然な英文ばかり
本書には,「Am I surprised!」であったり「Tell me what it was like tomorrow, OK?」などといった文が出てきます。
こうした特殊な文を示して,「実は何でも良いんだよ!」とだけ結論付けて終わりとはなりません。
実際に使われている英語を学ぶことで,気が付けば文法のかなり深いところまでを理解できてしまいます。
基本的に,例文は大学受験に役立つものを選んだとのことですが,そのほとんどはTOEICに出て来てもおかしくないものです↓

一億人の英文法の使い方
先述しましたが,一億人の英文法は最初から順番通りに最後まで読み切ることが重要です。
というのも,基本的には前の内容を理解していることを前提に話が進むからで,特にCHAPTER0では,本書の核となる配置原則について網羅的な説明があるので,よく理解してから先に進みましょう。
場合によっては,その部分だけを2周読んでみたり,少し学習が進んでから戻ってくるのもおすすめです。
気になるのが読破にかかる目安期間で,7~10日間となります。
一日に数時間を学習に費やすようにして,できるだけ短期間で読破することを心がけてください。
やろうと思って気持ちが英文法に向いている今がチャンスですし,実際,同じ時間学ぶのであれば短期間で済ませた方が覚えやすいです。
文法の勉強が苦手な方であれば,以下に示されるようなコラムは飛ばしてしまって構いません↓

もっとも,1回通しで読んだだけではわかるようになりませんし,粗くても1回とりあえず読み終えてから再度読み直してみると,また別の発見があるものです。
最初にコラムを飛ばした方が2回目に読む際は,★3個の内容だけを読むようにし,3回目以降でそれ以外の内容を読んでみるのはいかがでしょう。
一周目では大切な箇所がわからないため,読みながら線を引くのは2周目以降をおすすめします。
さらなる発展学習として考えられるのが音読です。
例文を実際に声に出して暗唱することで,初めて英語を話せるようになります。
本気で取り組む方は,最初に紹介したCDブックも購入するようにして,正しい発音と抑揚でもって読んでみてください。
なお,私が本書を読んだのは数年前ですが,TOEICを久々に受ける際には本書を引っ張り出してきては,失った記憶を蘇らせることにしています。
まとめ

以上,大学受験生に向けた文法書でありながら,英語を話せるようになりたいビジネスパーソンやTOEICのスコアアップに役立つ,一億人の英文法のレビューでした。
著者独自の文法体系が特徴的で,豊富なイラストとネイティブ視点での解説の両方を頼りに,難しい専門用語を介すことなく,英語を深く理解することができます。
最終目標は英語を話せるようになることですが,本書で学ぶことでPart5の文法やリスニングセクションの理解も変わってくるはずです。
なお,著者の解説内容に不安を覚える方がいるかもしれませんが,実は偏差値の高い中高一貫校でも本書と似た内容で授業が行われることがあります。
以下は,男子御三家の麻布中の授業にて配布されたプリントの例ですが,まさに本書で語られていた内容と似た記述を確認できるはずです↓

「…ingは生き生き感」とだけ習ってテストに挑まさせられますが,中学生とはいえ,それでto不定詞との区別ができるわけで,本書の解説だけを特別視する道理はありません。
そもそも,NHKのラジオ講座に選ばれる講師というのは,その時代を代表する教育者である場合がほとんどです。
古くは松本亨先生や東後勝明先生など,一流の方が講師を務められていました。
信頼性は保証されていると安心して,あとはただひたすらに頑張るようにしてください↓
最後までお読みいただきありがとうございました。