今回は「TOEICの歴史」についてまとめてみることにしました。
私が知っていることとしては,L&Rテストの試験がこれまでに数回変わったことや,TOEIC Bridgeなどの新しい試験が追加されたくらいで,いつどういった目的で生まれることになったかについては,この記事を書くまでは知らなかったわけです。
TOEIC対策として様々な教材に触れることになっても,たとえ公式問題集であってもその歴史についてまでは記載されていないわけで,意外と多くの方が知らないのではないでしょうか。
それでは早速,調べていくことにします。
もくじ
TOEICの生みの親は日本人?
TOEICの誕生について語るためには,なんと1970年代にまで遡らなければなりません。
その頃の日本といえば,第4次中東戦争に端を発した石油危機が起こって経済的に打撃を受け,日本の輸出超過が原因となり,アメリカなどとの間で貿易摩擦が問題になっていました。
いわゆる,高度経済成長の影の部分になりますが,翌年の1974年には経済成長率がマイナスになってしまっています。
ちょうどその頃,先進国はそれまでの固定相場制から変動相場制へと切り替えを開始し,1976年にはIMF暫定委員会で承認されました。
そのような時代ですから,日本は海外進出してコストカットや効率化を図りつつ,先の貿易摩擦の緩和を目指すことにしたわけです。
そうなると,世界中の人と互いに理解を深めていくためにも,英語でのコミュニケーションが必須となります。
つまり,知識としての英語よりも道具としての英語運用能力が求められるようになったわけですが,当時の現状はあまり良いとは言えない状況でした。
英語力不足が原因で,国際的な商談や会議の場で実力を発揮できず,苦労しているビジネスパーソンは多かったわけです。
そんな中,アメリカのニュース雑誌を発行するTime社に24年間勤務していた北岡靖男氏(1928~1997)と,通商産業省(今の経済産業省)で国際的な経験を積んだ渡辺弥栄司氏(1917~2011)の2人が運命の出会いを果たします。
1974年には,北岡氏が国際コミュニケーションズを設立し,渡辺氏の所属する日中経済協会のオフィスは同じ青山ビル内にありました。
彼らは当時の英語教育について話し合い,結果的に「英語教育発展のために,何か実効性のあるプログラムを開発しよう」という発想でTOEICを開発することになります。
TOEICテストはいつ誕生したか
当時,世界最大の非営利テスト開発機関だったのは,アメリカのニュージャージー州にある「ETS」です(設立は1947年です)。
この機関に先の2人が目をつけるようになったのは,国際コミュニケーションズの同僚だった三枝幸夫氏(1931~2005)の助言があったからだと言います。
TOEFLやSAT(全米大学入学共通試験)もここが作っていたわけですが,ETSが製作するテストの特徴は,
- 信頼性:何度受けても同じ基準で評価される
- 妥当性:受験生の特徴や特性,知識やスキルを定義通り測定できる
- 公平性:言語や問題内容で受験者の有利・不利が生じない
という3つの開発理念によく表れています。
独自の調査研究が行われては,統計分析の専門家のチェックが毎回入るわけですから,受験生が同じ実力のまま何度テストを受けようとも,大きく点数が変わることはありません。
さて,そんなETSと先の日本の発案者たちが交渉を開始したのは1977年の9月のことです。
当初は,遠く離れた日本から来た訪問客の,それも個人の依頼だということで難色を示したETSですが,粘り強い交渉が実を結び,その後2年間の時を経て,ついにTOEICテストが誕生することになります。
国内においては,渡辺氏がテストの実施・運営組織作りに動いており,通商産業省の認可を得たTOEIC運営委員会が設置され,記念すべき第1回が1979年の12月に札幌・東京・名古屋・大阪・福岡の5ヶ所で実施されました。
以下に,これまでのTOEIC関連のテストが誕生した経緯を表にまとめておきます↓
年代 | できごと |
1979 | TOEIC L&Rテスト第1回 |
1981 | 団体特別受験制度開始 |
2001 | TOEIC Bridge L&R開始 |
2006 | TOEIC L&Rがリデザイン |
2007 | TOEIC S&W開始 |
2016 | TOEIC L&Rがアップデート |
2019 | TOEIC Bridgeがリデザイン |
なお,現在TOEICの運営をしている国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)が設立されたのは1986年になってからで,現行のTOEIC L&Rテストは2016年の変更を経た新形式です↓
TOEICと企業の関係について
初回のTOEICテストの受験者は3千人ほどしかいませんでしたが,1985年度に9万人弱,1990年度に33万人超に達し,2000年度には100万人を突破,そして2019年度には年間で約220万人が受けるほどのテストにまで成長しました(2023年度は176.3万人です)。
これには,企業のグローバル化が進んだことが要因の1つとされています。
少し前であれば,一部の有能な人を選んで行っていた英語研修ですが,1980年後半以降はずっと多くの社員が対象となり,企業全体の英語力アップを目指すようになりました。
そんなときに,客観的に英語力を評価でき,スコアで目標を達成できたかどうかが簡単にわかるテストが出てきたら,皆が飛びつくのも無理はありません。
モノサシが不在だった時代において,TOEICの誕生はタイミング的にドンピシャだったわけです。
そういった理由で,1990年代になると就職時の採用基準として使われ始め,2000年代には昇進や昇格の要件にもなっていきました。
今では大手のグローバル企業以外の,たとえば旅館や飲食店やタクシー会社においても研修が行われているほどです。
スコア目標は,いわゆる「おもてなし英語」の習得がメインの場合,500~600点に設定されます。
1度で聴き取れなくても,何度かやり取りしているうちに相手の言いたいことが理解できればよいわけです。
そのようなニーズの拡大に合わせて,初・中級者向けのTOEIC Bridgeが開発されましたし,ビジネス現場で話したり書いたりする能力を測れるS&Wも登場してきました。
2019年に英語4技能に対応したのは,2020年度の入試改革を見据えて,中高生の実力を測る目的が大きかったように思いますが,以上のように益々の広がりを見せているTOEICテストです。
日本で発案され,ETSが形にしたTOEICはIIBCによって運営されていますが,運営機関は東南アジアやヨーロッパや中南米のような非英語圏にも設置されていて,現在では160ヶ国14000団体が受験するグローバル・スタンダードな存在になっています。
まとめ
以上,TOEIC誕生の歴史と,企業におけるTOEICテストの変遷についてまとめてきました。
今回の内容についてより詳しく知りたい方は,以下の記事をお読みください↓
歴史について知ったからといってTOEICの点数が上がるわけではありませんが,日本人が発案したテストが今では世界の国々に必要とされていることを知って,TOEICの印象が良くなったことは確かです。
グローバル化の流れは,最近の社会情勢をみても変わっていませんから,これからもTOEICは貴重なモノサシとして世界中で用いられ続けるでしょう。
社会で活躍したい方は,それ相応の高いTOEICスコアを目指して是非頑張ってください!